月額変更届(随時改定)とは?対象になるケースと手続時期
社員の給与を昇給・降給したときには、社会保険の「月額変更届」が必要になる場合があります。
健康保険・厚生年金保険の保険料は「標準報酬月額」をもとに計算されますが、給与が大きく変わった場合には、毎年の算定基礎届を待たずに標準報酬月額を見直す仕組みがあります。
これを「随時改定」といい、一定の要件を満たした場合に会社が月額変更届を提出します。
ただし、「給与が上がったら必ず提出する」「残業代が増えたら提出する」というものではありません。
この記事では、月額変更届が必要になる3つの要件、固定的賃金とは何か、いつから標準報酬月額が変わるのかなど、会社が確認しておきたい実務上のポイントを分かりやすく解説します。
月額変更届(随時改定)とは
健康保険・厚生年金保険では、毎月の保険料を計算する際に「標準報酬月額」を使用します。
標準報酬月額は、原則として毎年4月・5月・6月に支払われた報酬をもとに算定基礎届を提出し、その年の9月から見直されます。
しかし、年度の途中で昇給や降給などがあり、実際の給与と現在の標準報酬月額との間に大きな差が生じた場合、次の定時決定までそのままにしておくと、実際の給与水準と社会保険料の基礎となる金額が大きくずれてしまいます。
そこで、一定の要件を満たした場合には、定時決定を待たずに標準報酬月額を見直します。
この仕組みを「随時改定」といい、その際に会社が提出するのが「月額変更届」です。
| 項目 | 基本的な内容 |
|---|---|
| 手続名 | 被保険者報酬月額変更届(月額変更届) |
| 見直しの仕組み | 随時改定 |
| 主なきっかけ | 昇給・降給などによる固定的賃金の変動 |
| 確認期間 | 変更後の報酬を初めて受けた月から3か月間 |
| 改定時期 | 変更後の報酬を初めて受けた月から数えて4か月目 |
随時改定には3つの要件がある
随時改定を行うためには、原則として次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 確認する内容 |
|---|---|
| ① 固定的賃金の変動 | 昇給・降給、基本給や固定手当の変更などがあったこと |
| ② 2等級以上の差 | 変動後3か月間の報酬平均から算出した標準報酬月額と、従前の標準報酬月額との間に原則として2等級以上の差があること |
| ③ 支払基礎日数 | 変動後3か月すべてで17日以上あること。一定の短時間労働者は11日以上 |
単に給与の総額が増えた、あるいは減ったというだけでは月額変更届の対象にはなりません。
まず「固定的賃金の変動」があったかどうかを確認し、その後の3か月間の給与を見て判定します。
固定的賃金とは
固定的賃金とは、支給額や支給率などがあらかじめ決まっている賃金をいいます。
月額変更届を判断するときには、「固定的賃金」と「非固定的賃金」を区別して考えることが重要です。
| 区分 | 主な例 | 随時改定との関係 |
|---|---|---|
| 固定的賃金 | 基本給、役職手当、住宅手当など | 金額の変更が随時改定のきっかけになる |
| 給与単価 | 時給、日給、歩合率など | 単価や率の変更は固定的賃金の変動に該当 |
| 給与体系 | 日給制から月給制への変更など | 給与体系の変更も対象となる |
| 非固定的賃金 | 残業手当、休日手当、深夜手当など | 増減しただけでは随時改定のきっかけにならない |
たとえば、昇格によって基本給が上がった場合や、新たに役職手当が支給されるようになった場合には、固定的賃金の変動に該当します。
一方、残業時間が増えたことによって残業手当だけが増えた場合などは、固定的賃金そのものに変動がないため、それだけでは随時改定の対象にはなりません。
残業代が増えただけでは月額変更届の対象にならない
月額変更届で特に間違いやすいのが、残業手当などの非固定的賃金の取扱いです。
たとえば、繁忙期に残業が増え、毎月の給与が大幅に増えたとしても、基本給や固定的な手当に変更がなければ、原則として随時改定の対象にはなりません。
ただし、基本給などの固定的賃金に変動があった場合には、その後3か月間の報酬を計算するときに、残業手当などの非固定的賃金も含めた実際の報酬額を使用します。
| ケース | 取扱い |
|---|---|
| 残業代だけが増えた | 固定的賃金の変動がないため、原則として随時改定の対象外 |
| 基本給が上がった | 固定的賃金の変動に該当。3か月間の報酬を確認する |
| 基本給が上がり、残業代も増えた | 3か月平均を計算するときは残業代も含める |
| 役職手当を新設した | 固定的賃金の変動に該当。随時改定の判定が必要 |
つまり、「随時改定のきっかけになるのは固定的賃金の変動」ですが、「2等級以上の差を判定する際には残業手当なども含める」という点が重要です。
変動後3か月間の平均で2等級以上の差があるか確認する
固定的賃金に変動があった場合には、変更後の給与が実際に支払われた月から3か月間の報酬を確認します。
その3か月間の報酬の平均額を標準報酬月額の等級に当てはめ、現在の標準報酬月額と比較します。
原則として、両者に2等級以上の差が生じた場合に随時改定の対象になります。
たとえば、4月に支払われる給与から昇給が反映された場合には、4月・5月・6月に支払われた報酬を確認します。
その3か月平均から算出した標準報酬月額が、現在の標準報酬月額より2等級以上上がる場合には、原則として随時改定の対象となります。
なお、標準報酬月額の上限・下限に関係する一定のケースでは、1等級の差でも随時改定の対象となる場合があります。
また、業務の性質上、例年同じ時期に残業手当などの非固定的賃金が大きく変動する場合には、一定の要件のもと、年間報酬の平均による随時改定を申し立てることができる場合があります。
固定的賃金の増減と標準報酬月額の方向にも注意
「2等級以上の差があれば必ず月額変更届が必要」というわけでもありません。
固定的賃金の変動方向と、標準報酬月額の変動方向が一致していることも確認する必要があります。
| 固定的賃金 | 3か月平均による標準報酬月額 | 原則的な取扱い |
|---|---|---|
| 上がった | 2等級以上上がった | 随時改定の対象 |
| 下がった | 2等級以上下がった | 随時改定の対象 |
| 上がった | 2等級以上下がった | 随時改定の対象外 |
| 下がった | 2等級以上上がった | 随時改定の対象外 |
たとえば、基本給が上がった一方で残業手当が大きく減り、3か月平均から算出した標準報酬月額が従前より2等級以上下がった場合には、原則として随時改定の対象にはなりません。
支払基礎日数は3か月すべて確認する
随時改定では、固定的賃金が変動した月から引き続く3か月について、支払基礎日数も確認します。
| 区分 | 必要な支払基礎日数 |
|---|---|
| 一般の被保険者 | 3か月すべて17日以上 |
| 一定の短時間労働者 | 3か月すべて11日以上 |
算定基礎届では、支払基礎日数の少ない月を除外して算定できる場合がありますが、随時改定では3か月すべての要件を満たす必要があります。
算定基礎届と月額変更届では取扱いが異なるため、混同しないよう注意しましょう。
月額変更届はいつから改定される?
随時改定の要件を満たした場合には、固定的賃金の変更後の報酬を初めて受けた月から数えて4か月目から新しい標準報酬月額が適用されます。
たとえば、4月に支払われる給与から昇給した場合には、次のようになります。
| 月 | 確認内容 |
|---|---|
| 4月 | 変動月(1か月目) |
| 5月 | 2か月目の報酬を確認 |
| 6月 | 3か月目の報酬を確認し、随時改定の要件を判定 |
| 7月 | 要件を満たした場合、新しい標準報酬月額に改定 |
この場合、7月分(4か月目)の保険料から新しい標準報酬月額が適用されます。
ここでも重要なのは、単に「昇給を決定した月」や「昇給の対象となる勤務月」ではなく、変更後の固定的賃金が実際に給与へ反映されて支払われた月を起点として考えることです。
給与が翌月払いの会社では、昇給日と変動月がずれることがありますので注意しましょう。
月額変更届はいつ提出する?
固定的賃金の変動後3か月間の給与が確定し、随時改定の3つの要件を満たすことが確認できた場合には、会社は月額変更届を速やかに提出します。
算定基礎届のように「7月10日まで」といった一律の提出期限が設定されているわけではありません。
提出先は、事務センターまたは管轄の年金事務所で、電子申請、郵送、窓口持参による手続ができます。
改定月に給与計算へ正しく反映できるよう、3か月目の給与が確定した段階で速やかに対象者を判定することが大切です。
月額変更届と給与計算の反映時期にも注意
月額変更届によって標準報酬月額が改定されると、健康保険料・厚生年金保険料も新しい標準報酬月額をもとに計算されます。
ただし、標準報酬月額の改定月と、実際に社員の給与から新しい社会保険料を控除する給与月が必ず同じになるとは限りません。
会社が社会保険料を当月控除しているか、翌月控除しているかによって、給与計算への反映時期が異なります。
月額変更届を提出するだけでなく、日本年金機構からの決定通知を確認し、給与計算システムの標準報酬月額や社会保険料を適切な時期に変更しましょう。
会社が月額変更届を確認するときのポイント
月額変更届については、毎月の給与計算の際に次のような変更がなかったか確認しておくと、届出漏れを防ぎやすくなります。
- 基本給の昇給・降給があった
- 時給・日給などの単価を変更した
- 役職手当・住宅手当などを新設・廃止・変更した
- 給与体系を変更した
- 固定的賃金変更後3か月の報酬に2等級以上の差が生じている
- 3か月すべての支払基礎日数の要件を満たしている
- 固定的賃金と標準報酬月額の変動方向が一致している
- 改定後の標準報酬月額を給与計算へ正しく反映している
特に、給与改定の情報が人事担当者と給与計算担当者の間で共有されていないと、月額変更届の確認自体が漏れてしまうことがあります。
昇給・降給や各種手当の変更を行ったときには、「社会保険の月額変更が必要になる可能性がある」という視点を持って管理しておきましょう。
よくある質問
Q.残業代が毎月大きく増えました。月額変更届は必要ですか?
基本給や固定的な手当などに変更がなく、残業手当だけが増えた場合には、原則として随時改定の対象にはなりません。
随時改定には、まず固定的賃金の変動があることが必要です。
Q.基本給が上がりましたが、2等級以上変わらなければ届出は不要ですか?
原則として、固定的賃金が変動しても、変動後3か月間の報酬平均から算出した標準報酬月額と従前の標準報酬月額との差が2等級未満であれば、随時改定の対象にはなりません。
ただし、標準報酬月額の上限または下限に関係する一定の場合には、1等級差でも対象となることがあります。
Q.昇給したらすぐに月額変更届を提出しますか?
原則として、昇給した時点ですぐに提出するわけではありません。
変更後の固定的賃金が支払われた月から3か月間の報酬を確認し、支払基礎日数や2等級以上の差など、随時改定の要件をすべて満たすか判定したうえで、速やかに月額変更届を提出します。
まとめ
月額変更届は、昇給や降給などにより固定的賃金が変動し、一定の要件を満たした場合に、標準報酬月額を途中で見直すための手続です。
固定的賃金が変わっただけで自動的に対象になるわけではなく、変動後3か月間の報酬、2等級以上の差、支払基礎日数などを確認する必要があります。
また、残業手当だけの増減では原則として対象にならないことや、固定的賃金の変動方向と標準報酬月額の変動方向にも注意が必要です。
昇給・降給や手当の変更があった際には、給与計算だけで終わらせず、その後3か月間の給与を確認し、月額変更届の対象にならないか管理しておくことが大切です。
アーク社会保険労務士事務所では、月額変更届や算定基礎届をはじめとする社会保険・労働保険の各種手続や、給与計算、日常の労務管理について、中小企業の実務に合わせたサポートを行っています。
社会保険の手続や給与計算でお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。

